雑記などのコラムです。
アツテコ20年史(第13回:あんなヘタな戦・・・)
しかし、それはついぞ実現することはなかった。
"尻尾"は見えたものの、僕はその尻尾が、これ以上近づいてこないことを知った。寄せて上り調子だった道場の波の限界点が見えたのだ。
エンジンに詳しい人なら上死点というべきか、例えはどうでもいいんだけど、とにかく、とりあえず今後しばらくは今までの勢いはなかろうという最高点が見えた時、おぼろげに見えた尻尾の位置は、その場所からはまだ、思いっきりジャンプしても届かない場所にあった。
でも、だからとて諦めたわけじゃない。それを感じたからこそ、最後のチャンスだと思った。
厚木道場がある程度の力を持っていなければ、大規模な大会の運営を独立して担うことなどできない。ここで動かなければ、今後二度と・・・とは言わないまでも、しばらく僕が理想を追える波はこないだろう。
そう感じた僕はうっすらと尻尾の見える空へ、思いっきり手を伸ばして飛んでみたのであった。

結果はごらんのとおり。書くも恥ずかしいほどに惨憺たるものだった。
各派閥の知り合いである指導者たちに連絡をいれ、テコンドーの現状をどう考えているかと、その展望を聞きながら、隙があれば(?)僕の理想を聴いてもらったりもした。
自分の力が足りないため、それをどういう形で実現していくかを皆で相談したい旨を語ってみたり・・・まぁ、いろいろな論陣を張って方々を説得してみることにしたのだ。
それぞれの組織内、いろんなしがらみでがんじがらめだから、相談した指導者たちの名前は一切伏せるけど、中には一定の興味を示してくれる方もいた。
その方が融通を利かせてくれて、多くの指導者たちが集まる場所で、僕の意見を披露する機会を用意してくれたこともある。
が、その時、場にいた指導者たちの目を、今でも忘れられない。
皆、未来に展望などない。疲れた目をしていた。
「そんなこと(努力)、他のところももうやってると思うよ」
その言葉より、その声の出し方が忘れられず、僕はその席上で、言葉を発することを忘れてしまった。

この方も、いろいろやってきたのだろう。その結果、あんな目をしていたに違いない。
とりあえず理解できたのは、何とかする気はないということだった。
あるいは気持ちはあってもお前とはやる気はないということかもしれない。
どちらにしても、手を伸ばしてみたら彼らは即座に霧の中へ身を隠したように、僕には思えた。
僕も悪い。僕がやるべきことは"政治"であったことに、その当時は気付いていなかったのだ。
ただ理想だけを吐き出して「正しいでしょ? やるべきだよ!」と唱えても、社会というものが決して理想というものに向けてまい進しているわけではないように、その方向に人の目が向くとは限らない。気力が衰えていればなおさらだ。
僕が苦手とする人付き合いを徹底的にこなし、信頼関係を築き上げることから行うべきことだったのに、僕は無邪気に正義を振りかざすだけの子供だった。
結局、僕の行った見るも無残な政治活動は、いくつかの田川バッシングを生みつつ、とある後輩の失笑を買って、幕を閉じた。

僕はそれでも糸口を探した。
新幹線を使ってかなり遠いところまで話を聞きに行ったこともある。こんなことをご大層に言うくらい腰の重い僕だから、本当に政治には向かないのだろうけど、とりあえず走り出してしまった勢いが止まるまでは走りきってやろうという気持ちはあった。
その際いただいた助言がまた、僕の視点とは別のものであったので、当時の主(おも)だった道場生を集めて話を聞いてみたりもした。
しかし、彼らにも特別な野心があるわけではなかった。
当たり前だ。僕はホームページの最初に「野心はないが強くなりたい方、うちに来てください」みたいなことを書いている。道場の理念がそうなのに、彼らの野心のなさを責めることなどできるはずもない。

とにかく言える事は、僕は指導者には向いているのだろうけれども、政治家としての能力は皆無だったということだ。宗家は有名な政治家を輩出しているのに、どうやらその血は僕には届いていないらしい。
昔、どこかで、「西郷隆盛は誠実に話せば皆はわかってくれると思っていたような男だった」と書いてあったのを見た気がしたけど、それと同類の子供であったわけだ。

しかしその上で、僕は、人間は子供だからこそ夢が見られると思っている。
夢だの理想だの、そんな旗をふれるのは、子供の心を持っていなければ絶対に無理だ。
だから、僕は能力不足のためにヘタな立ち回りしかできなかったけど、僕の原動力となっていた部分は今の凝り固まった日本ITFにおいて、僕だからこそできたことなのだという自負だけはある。

読み返してみても、自分でも笑っちゃうくらい、ヘタな戦をしたものだと、思う。
しかしそれを知ったからとて、「今なら最善手で渡り合えるか」と言えば、僕には指導者ごとに個別に仲良くする気さくさ?はあっても、それらをつなげる政治力はない。
再びチャンスが到来したとしても、僕と同じ理想を追ってくれる、政治力の高い人間が味方にいなければ、結果は変わらないだろうと思う。

ともあれ、僕の無邪気な理想は暗礁に乗り上げた。えらくあっさりしているように見えるけど、ここまで、長い月日がたっていた。

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