雑記などのコラムです。
10月雑記(教える側、教わる側の違い)
幕末(江戸末期)に栄えた剣道の流派に「北辰一刀流」という名門道場がありました。

開祖、千葉周作の教え方が秀逸だったようで、なんでも、

「他道場で三年かかる業(わざ)は、千葉で仕込まれれば一年で功が成る。
五年の術は三年にして達する。凡才でも一流たりうる」

といわれたそうです。

当時、剣道道場は技術を解析せず、わかりづらい技術をわかりづらいまま行い、
編み出された技は「秘伝」と称されて、一部の門人にしか伝えられなかったそうです。
ひどいのになると「わが流派には必殺剣がある」と、実際は無いものをまことしやかに語って、
虚勢を張った道場も少なくなかったようで・・・まぁ、客を呼ぶために神秘のベールが
必要だったのだとは思いますが、そんな感じで非常に効率の悪い教え方をするのが、
一般の剣道道場だったようです。

北辰一刀流の千葉周作はそういう神秘的な要素をすべて廃し、
とにかく技一つ一つを噛み砕いて、わかりやすい言葉で解説し、鍛錬をさせたことが
他の剣道道場と違いであり、上記にあるような評価を得た理由らしいです。

格闘技に関して言えば、
技に秘密やあやふやな部分を作らず、一つ一つを丁寧に分解してわかりやすく説明し、
戦う技術に対する考え方を明確に伝えることができるかどうかが、
「他道場で三年かかる業が一年で成る」のかどうかにかかっているのだと思います。

要するに、「教える側」には確固たる理屈や哲学が必要なのだと思うのです。
「どう教えたいのか。その技術を伝えてどうしてほしいのか。
どうしたら自分たちで応用が利くような教え方ができるのか」
・・・教える側はそれを踏まえなければ一部の素質のあるものしか育たない道場となります。
名選手が名トレーナーになれると限らないのは、
ここの切り替えができないからじゃないでしょうか。

そんなところから、ウチの道場はとても理屈っぽい道場となりました。
私自身が千葉周作ほどの素養がないために追いつかない部分もありますが、
少なくとも教わるほう側に
「なにを言っているかわからない」教え方はしたくなく
「言ってることはわかるけど修練不足のためできない」状態を
作れるよう、努力をしているつもりです。


大事なのはここからです。ここを読むであろう皆さんのほとんどは
テコンドーを教える側じゃないでしょうから、こんなことは考えなくていい。
いやむしろ、こんなことを考えないでほしい・・・というのが、今回のコラムのテーマです。

「テコンドーを教わる側は、理屈など考えなくて(生み出さなくて)いい」
ってことです。
教えるのに、指導者はあやふやな哲学で臨んじゃいけないというのは今、上で言ったとおりですが、
教わる側は「そんなことを考えているヒマがあれば体を動かせ」と。
「言ってることはわかるけど修練不足のためできない」のなら、考える必要なんてないと思います。
10秒そのことについて頭で考えていたら、1本や2本、その技術の練習ができるわけで、
10000本打てばうまくなるのなら、そこで1本でも稼いだほうがうまくなるというもの。
教わる側の理解は最低限でいいと思うのです。


要するに役割分担なのだと思います。
頭を使うべきは「教える側」
体を使うべきは「教わる側」

「教わる側」は「教える側」の経験豊富な頭を借りて、
今考え付かない知識を簡単に手に入れて体を動かせばいいし
逆に「教える側」は「教わる側」の体を借りて、自分の考え方が正しいかどうかを確認すればいい。

北辰一刀流の千葉道場はこれがしっかりしていたから、
冒頭のような評価を得たのだと思うのです。

理屈っぽいウチの道場ですが、皆さんに論客になってほしいわけではありません。
「あ、この道場は理屈っぽいけど、自分で(指導員と同じように)モノ考えながら
格闘技をしなきゃいけないわけじゃないんだ」
ってことを、しっかり理解してもらえたら、と思います。

実際、戦いは、理屈じゃないし、そんなことばっか考えて殴り合いしてるとつまんなくなります。


(なお、「言ってることはわかるけど修練不足のためできない」のはオッケーですが、
「なにを言ってるのかわからない」のは、だめだと思います。たぶんそれでやらされる練習なんて面白くもないと思うので、わかるまで聞いてください。(時間が無いときは練習後にわかるまで聞いてください))


それと、このコラムは「考えることを放棄しろ」といってるわけじゃありません。
うちは具体的に「こうしろ」ということが稀(まれ)だと思います。
「こうすると効率がいい」という「考え方」を教えています。
だから具体的にどうするかは自分で考えなきゃだめです。

このコラムで言っていることは、すべてにおいて「考えるな」ではなく
「理論などを考える必要はない」ということを言っています。



あー難しいデスネ。このへんを、すごくわかりやすく言えたのが、千葉周作だったのでしょう。(苦笑)
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